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2020.11.20

 

 

【日経産業新聞 20201120日(金)】

 

3Dデータで文化財保全 修復時の設計図に活用

 

京都を中心に3次元(3D)データを使った文化財の保護に取り組むスタートアップがある。KYOTO’S 3D STUDIO(3Dスタジオ、京都市)だ。独自の計測技術を用いて仏閣や仏像の高精細な画像データを取得。デジタル図面として修復や保全に役立てる。起業を後押ししたのは西村和也代表も被災した熊本地震だった。

 

浄土宗の七大本山の一つである金戒光明寺。運慶が作ったと伝わる「脇侍」の額に向けて、数センチの距離からレーザーが放たれた。データはその場でパソコンに取り込まれ、画面上にバーチャルの脇侍像が瞬く間に出現した。同社が使うのは建設業や自動車産業で用いられる米ファロ社のレーザースキャナー。文化財にも使えるのではと転用した。

 

物体の表面をスキャナーで計測、3次元の座標値と色の情報を持つ無数の点に置き換える。仏像なら50マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以内、建築物なら1ミリメートル以内の寸法誤差でカラーデータにできる。3Dスタジオの強みは実物の質感を損なわないように取得したデータの色彩などを編集する技術である。

 

仏像の曲線や、古い木造建築物の屋根や天井は入り組んだ形状になっていることが多い。満遍なくレーザースキャナーをあてるためにスキャナーの位置を動かすと、重複して照射する部分が増える。照射のタイミングによって日の当たり方などが変わるため、データノイズが増えて実物の質感が損なわれてしまう。

 

これを解決するため物体を計測する独自のアルゴリズムを中堅化学メーカーのデンカと開発した。デンカは文化財の補強材を手掛けており、技術を掛け合わせた。このアルゴリズムを使えば照射や露出値が異なるデータを対象の物体に統合する際のノイズを5割以上抑えられる。木造建築物の重厚な風合いをデータに残せたり、金箔のように極端に明るい物体の表面の凹凸も克明に再現できたりするという。

 

メジャーを当てながらの設計図の作製に比べ、大幅に省力化ができる。例えば、神社では鳥居の高い位置で文字を掲げる木製の扁額(へんがく)を石製に付け替える工事が増えている。老朽化した扁額の参拝者への落下を防ぐためだ。交換に先だって、取り付け方などを記録に残す必要がある。

 

従来はクレーン車に乗って扁額に近づいて、鳥居との隙間の幅や角度を計測。複数の作業員が半日がかりで計測に骨を折っていた。3Dスタジオは特定の場所から3D計測器を必要な分稼働させるだけ。1人が約2時間で作業を終えられる。「お堂などの建物全体の測量でも時間5分の1にできる」(西村代表)と自信を持つ。

 

西村代表が文化財に関わるようになったきっかけは、2016年の熊本地震だ。当時、西村氏は熊本でインフラの点検などを手掛ける会社を経営していた。激しい揺れで自宅と事務所は全壊し、数か月をかけて事業の再開にこぎつけた。

 

ただ、周囲を見渡すと神社仏閣の復興は遅々として進まない。設計図がなくデータ取得もままならないことが再建を阻んでいた。「インフラ点検で使う3D計測技術が文化財の保全に生かせるのでは」と起業を決意。重要文化財の8割が集中する関西で腕を振るおうと18年に拠点を京都にうつした。

 

世界遺産の醍醐寺などで実績を積み重ねながら、奈良文化財研究所といった有力学術機関とも連携。19年には文化庁からの誘いで、世界の博物館や美術館の専門家らが集まる国際博物館会議の世界大会に出展した。

 

文化財はありのままの姿での保存、精密な修復が生命線。それをデジタルで実現する珍しい技術を持つ3Dスタジオは、文化財学界のなかで一躍名をはせた。これまで手掛けた建築物は30、仏像は約50体。3月には「京都市ベンチャー企業目利き委員会」から最高評価となるAランクの認定をうけた。

 

足元で3Dスタジオが力を入れるのは、文化財の「オンライン鑑賞」だ。触ったり間近で見たりできない文化財をスマートフォンを通じて様々な角度から手に取るように楽しめる仮想現実(VR)や、建物の土台だけが残る場所には在りし日の姿を映す拡張現実(AR)の動画を制作、配信するアイデアを温める。

 

コンテンツ収益の一部を文化財保全の原資として寺社に還元する仕組みだ。金戒光明寺を含めた複数の寺社や河村能舞台(京都市)といった能楽堂などと制作を進め、21年度にも商用化する考えを打ち出す。

 

熊本では地震で被害をうけた神社の再建が進まなかった結果、夏祭りや七五三といった行事がなくなり地域の活力が失われていく様子を目の当たりにした。「文化財は人のよりどころになる存在だ」。西村氏は揺るぎない信念のもと、歴史を途絶えさせないよう意欲を燃やす。

 

(苅野聡祐)

 

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