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【News:新聞掲載】「3Dで残せ、歴史建築」毎日新聞に掲載されました。

2020.5.25

 

 

【掲載日:毎日新聞 2020525日(月)】

 

3Dで残せ 歴史建築 

誤差1ミリ以下/質感まで再現 熊本地震を機に起業

 

2016年4月の熊本地震で熊本県西原村の自宅が全壊した3D技術者、西村和也さん(48)が、世界に誇る日本の歴史的建造物の3Dデータ保存に取り組んでいる。築数百年の神社仏閣などは当時の設計図がほとんど残っておらず、地震や台風で損壊した際は3Dデータが修復の手がかりになるためだ。きっかけは熊本地震。村からほど近い同県阿蘇市の阿蘇神社で進む修復工事だった。

 

九州で橋の点検・調査などを手がけていた西村さんは10 年、熊本空港や九州道のインターチェンジに近い交通利便の良さ、小鳥のさえずりが聞こえる緑の豊かさにひかれて福岡から西原村に移り住み、家を建てた。しかし、西原村は16年4月の熊本地震で震度7を観測。激震に襲われた西村さんの自宅は全壊した。

 

生活再建や復旧工事に追われる中、地元紙の記事が目に留まった。国指定重要文化財の楼門や神殿が倒壊した阿蘇神社で、詳細な図面がないため部材をどう組み立てればいいか分からず、修復に困難が伴うことを伝えていた。

 

「古い建物は設計図が残っていないことが復旧のネックになるのか」。 地震前から3D技術の活用について考えていただけに、ひらめくものがあった。建造物などをレーザーで計測した3D画像の精度は誤差1ミリ以下で、修復時の貴重な資料になり得る。「うちの技術で設計図代わりのデータを残せば後世の役に立つかもしれない」―。

 

そう思い立ってからの行動は早かった。調べてみると、国宝建造物の約7割は京都や奈良をはじめとする関西に集中。ここで実績を積んで事業化できれば、行く行くは仕事を通じて熊本でも歴史的建造物の保全などに役立てるのではないか。そう考えて17年4月、家族を西原村に残して単身京都へ。京都市で「KYOTO’S 3D STUDIO」を起業した。

 

ただ、これまでにない取り組みだけに理解を得るのには時間がかかった。熊本地震の被災者生活再建支援金も事業につぎ込み、資金繰りに苦しみながら2年。ようやく西村さんの技術を試してくれたのが国宝・五重塔などで知られる世界文化遺産の醍醐寺 (京都市) だった。

 

醍醐寺は18年9月の台風21号で土塀が崩れるなど被災していた。西村さんは3Dスキャナーで国宝の三宝院唐門などを計測して3D動画を作成。上下左右360度から壁の色味や質感まで再現された鮮明な映像で寺関係者を驚かせた。同市の金戒光明寺では運慶作とされる「文殊菩薩像」を3D化。橋本周現執事は「再現性は想像以上だった」と評した。

 

京都での実績に評価が集まり、熊本県高森町でも仕事が始まった。寺社の他、建設途中の1970年代に出水事故が相次いだため供用に至らず現在は公園として整備されている「高森湧水トンネル」など地域の遺構を3D計測し、スマートフォンなどでイメージ動画を見られるようにしようと検討を進める。念願の地元貢献へ一歩を踏み出した。

 

全壊した自宅の再建資金を事業に充てたため、自身も家族も賃貸暮らしで跡地は今も更地のまま。しかし、事業を軌道に乗せて必ず同じ場所に建て直そうと心に決めている。「被災地の復旧は行政の仕事だけど、復興は僕たちの気持ちで示すものだから」。その日に向けて、熊本と京都を行き来する日々が続く。

 

醍醐寺の3D動画は動画投稿サイト「ユーチューブ」

https://www.youtube.com/watch?v=sHpfvBZJSBM )で見られる。

 

(飯田憲)

 

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